漢方ダイエットについて ~防風通聖散は要注意!~

新神戸きたむら内科 循環器・漢方クリニック院長の北村順です。

今日は、防風通聖散による漢方ダイエットについて取り上げたいと思います。

世の中には『漢方の痩せ薬』、『漢方に学んだ痩せ薬』と宣伝されている薬がたくさんありますね。痩せたいという気持ちと、漢方という安心感から、漢方薬によるダイエットを試したいと思われる方も多いと思います。

皆さんは、その類の多くの薬が『防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)』という薬を元にして作られていることをご存知でしょうか? 有名なナイシトールもそうですね。

防風通聖散は、明治~昭和初期に森道伯先生が提唱した『一貫堂医学』で多用された漢方薬の一つです。一貫堂医学には、臓毒(ぞうどく:新陳代謝障害物などの毒が身体の各臓器に瀰漫蓄積したもの)という考え方があり、そのうちの食毒(過食による食物の慢性中毒)に対して防風通聖散が用いられました。『疎食菜食者には食毒はあまりないが、都会の安逸生活を送っている美食家に多い』、『防風通聖散は、食毒を中和駆逐し、自家中毒に因る疾病を未然に防ぎ、またすでに招いた病気の治療に用いられる』という記載(*)からもわかるように、防風通聖散は食べ過ぎによる肥満症および肥満に伴う諸症に対する薬として用いられてきたのです。

防風通聖散のダイエット効果については、基礎研究(**)によって『褐色脂肪組織の熱産生亢進』→『代謝の活性化』→『体重減少』という機序が指摘されていますが、臨床研究(***)においても『基礎代謝量増加に伴う体重減少効果』が示されています。

たしかに、ダイエットの効果を高める薬であることをきちんと理解してもらったうえで服用できれば、かなりの減量に成功する方もおられます(注:服用するだけで痩せるわけではありません。あくまでもダイエットの効果を高める薬ですから、食事制限が必要です)。

しかしながら、防風通聖散の安易な服用は避けるべきであると言わざるをえません。何故なら、防風通聖散は“毒をもって毒を制す”ような薬なので、ときに重篤な副作用が起こってしまうのです。中でも、間質性肺炎や肝機能障害などの副作用は深刻な状況を引き起こすことがあるため注意が必要です。

私は漢方専門医として15年以上漢方診療を行っていますが、きちんと通院してもらえる方、血液検査を受けてもらえる方にだけ防風通聖散を処方してきました。重篤な副作用が出てしまったら本当に大変なんです! そもそも『漢方なら安全だ』と思って漢方薬を希望されているのに、重篤な副作用が起こってしまっては期待を裏切ることになってしまいますし…。

そういうことで、防風通聖散によるダイエットを私は推奨していないのですが、循環器専門医であり、漢方専門医でもある私としては、なかなか痩せられず、生活習慣病の管理がうまくいかない方々に漢方薬を役立てたいという思いはずっとありました。どうすれば良いかと色々と考えた結果…安全にダイエットできる漢方薬を作ることにしました。

新神戸きたむら内科 循環器・漢方クリニックを開院するにあたり、当ビル1階にあるアルカ薬局様に協力をお願いし、煎じ薬を扱ってもらうことになりました。煎じ薬であれば、配合する生薬の調整もできますし、体調に合わせて微調整も可能。安全な漢方ダイエットを行って頂けるようになっています。

話が長くなってしまいましたので、当院で行っている漢方ダイエット外来については、また改めて書きたいと思います。ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。

<参考文献>

*矢数格著:漢方一貫堂医学(医道の日本社)

**Yoshida T et al: Thermogenic, anti-obesity effects of bofu-tsusho-san in MSG-obese mice. Int J Obes Relat Metab Disord 19:717-722,1995

***吉田俊秀:肥満の薬物療法.CLINICIAN 469:286-290,1998